第25話 健次郎 「第2ラウンド」
 
 
 
翌日、俺は登校してすぐに本城の席へ行った。
何をどう話そうとか考えてた訳じゃない。
ましてや、謝ろうなんて思っちゃいない。

だけど・・・
なぜだか、本城のところへ行かずにはいられなかった。


「よお」
「・・・」

本城が胡散臭そうに俺を見る。
俺から本城に話しかけるなんて、初めてだもんな。
俺も、「よお」とは言ったものの、そこから言葉が続かなかった。

「・・・」
「なんだよ、村山。なんか、用?」

用だと?てめーに用なんかねーよ。

「・・・お前の姉貴、元気か?」
「は?」

本城が眉をひそめる。
そして、目が鋭くなった。

「なんで、急に俺の姉貴のことなんて聞くんだ」
「元気か、って聞いてるだけだろ」
「・・・元気だよ」

嘘つけ!

「そうか。そりゃよかった。俺はまた、自殺でもしたんじゃねーかと思ったよ」

あ。やべえ。

「・・・なんだと?」

本城の目がますます鋭くなった、と俺が思った時には、
本城が俺に殴りかかっていた。

不意をつかれた俺は、そのまま本城と一緒に机の上に倒れこむ。

「てめえ!!」

本城が本気で俺を殴る。
前みたいに左手じゃなく、右手だ。
容赦なく何発も殴られて、俺の意識はすぐに薄れて行った。

遠くに、萌加とナツミの悲鳴と、龍聖が本城を止める声が聞こえた・・・






「健次郎。大丈夫か?」
「・・・龍聖?っつ、いてえ・・・」
「当たり前だろ、あんだけ殴られりゃ」

俺は寝ていたベッドから身を起こした。

「ここは?」
「保健室。もう少しで病院送りだったんだぞ」

見回すと、確かに保健室だ。

「そっか、龍聖が本城を止めてくれたんだったな。ありがとな」

俺はホッとして、もう一度ベッドに横たわった。
ベッドの脇の椅子に腰掛けている龍聖がため息混じりに言う。

「そんなのはいいけど。何があったんだよ。本城、マジでキレてたぞ」
「そういや、本城は?」
「萌加がなだめてる」
「おお、そりゃ本城もおとなしくせざるを得ないな」
「そんなこと言ってる場合かよ・・・」

龍聖がもう一度ため息をつく。

「ま、自業自得だ。悪いのは俺じゃないけど」
「え?」
「お袋が、チンピラ使って本城の姉貴を襲わせたんだ。前に本城が俺を殴ったから仕返しだってさ」
「・・・えっ。本城の姉貴を?」

龍聖は目を見開いて、絶句した。
そりゃ驚くだろうけど・・・龍聖、なんか青くなってるぞ。

「健次郎・・・それ、ちょっとヤバイかも」
「ヤバイよ。警察に捕まるかもな」
「そうじゃなくて!」
「え?」

龍聖は声を小さくする。

「本城の姉貴って、本当の姉貴じゃないんだ・・・まあ、それはいいんだけど、
その女、ヤクザの組長の女なんだぞ」
「ヤクザ?」
「本城は今、ヤクザの家に住んでるらしい。そこのお手伝いさんを、本城が姉貴みたいに慕ってるんだ。
で、そのお手伝いさんってのが、組長の愛人なんだ」
「・・・へえ」
「へえ、じゃないだろ!そんな女に手を出して・・・警察の前に、そこのヤクザに捕まったら、
本当に殺されるぞ!」
「そうかもな」
「そうかもな、って・・・」

俺は息をついて目を瞑った。
殺される覚悟をした訳じゃない。

安心したんだ。

なんて言うか・・・悪いことしたらバチが当たる、みたいな?
そういうのがちゃんと成り立ってて、安心した。

もしお袋や俺になんのバチも当たらなかったら、
本城と本城の姉貴は泣き寝入りだもんな。

やっぱ悪いことはしちゃいけない。


まあ、やっぱりちょっと怖いけどな。



 
 
 
 
 
 
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