第26話 健次郎 「いつか」
 
 
 
一日休んで、翌日俺は学校へ行った。

いつも通りの朝の教室。
だけど、俺が教室に入った瞬間、全員の視線が俺に集まった。
決して好意的な視線じゃない。
批判的な視線だ。

俺が本城に対して何をしたのかは、みんな知らないだろう。
だけど「本城があれだけ怒るんだ。村山が何か悪いことをしたに違いない」って思ってるのがわかる。

つまりそれだけ本城はみんなに信頼されている、ってことだ。

金持ちの俺より、貧乏人の本城を取るのかよ。
よく「金の切れ目が縁の切れ目」なんて言うけど、世の中捨てたモンじゃないな。

俺はまたちょっと安心した。

でも、こんなに傷だらけの俺を少しくらい労わってくれてもいいだろ!
すげー痛いんだぞ!


と、俺に向けられた視線の中でも一際鋭い物を感じ、俺はそっちを見た。

・・・本城だ。

驚いた。登校してきてやがる。
なんの処分もなかったのか?
同級生を、しかも俺をこんなに殴っておいて?

そうか、本城のバックにはヤクザがいるんだもんな。
たぶん堀西の経営陣とかにコネがあるんだろう。
コネってゆーか、脅しか。


本城は俺と目があうと、一秒でも同じ空間にいたくないとでも言うように教室を出て行った。
思わず俺も本城の後を追う。

「本城!」

呼びかけても本城は止まらない。
それどころか次第に足が速くなる。
俺もそれを追いかけて、いつの間にか2人して校庭に走り出ていた。

「待てって!」
「んだよ!!!」

俺がようやく本城の腕をつかむと、
本城は見たこともない険しい表情で俺を睨んだ。

息が上がっている。
走ったからじゃなくて、怒ってるからだろう。

「俺に話しかけんな!」
「・・・悪かったよ」
「はあ!?」

本城の剣幕に思わず謝ってしまった。
なんで俺が謝らないといけないんだ。

でも・・・

「だから、悪かったって」
「謝ったからって許されると思ってんのか!?」
「・・・」
「ただで済むと思うなよ!!」
「思ってない。お前んち、ヤクザなんだろ」

本城が片目を細める。
「わかってるんだったら覚悟しとけ」とでも言いたげだ。

「そのうち、警察かお前んとこのヤクザが俺の家に押しかけてくるんだろーな」
「・・・いい度胸してんじゃねーか」
「まあ、しょーがない。こっちが悪い」
「・・・怖くないのかよ」
「怖いけど。だからって許してくれるわけじゃないんだろ」
「当たり前だ」

本城が俺の手を振り払った。
俺も抵抗はしない。

警察かヤクザに捕まれば、もう本城と直接話す機会はないかもしれない。
本城に言いたい事は言った。
もうじゅうぶんだ。

「あ。やべ、1限が始まる。じゃーな」
「・・・」

俺はスッキリした気分で教室へ戻った。




それから何日かして、お袋が半狂乱で俺に電話してきた。
どこかの情報屋から、本城の姉貴分の立場を知ったようだ。
あと、大谷って奴も警察に捕まったらしい。
なんでもかなりボコボコにされた状態で、クリスマスに警察の前に放置されてたとか。
ヤクザから警察へのクリスマスプレゼントか。面白いな。

「け、健ちゃん・・・!!どうしましょ、私、私・・・」
「母さん、落ち着けって。大丈夫だって」
「え?」
「捕まるときはみんな一緒だ」
「健ちゃん!!!」


だけど、それから何日たっても、何ヶ月たっても、俺の家に警察もヤクザも押しかけてくることはなかった。

俺の勝手な推測だが、多分、本城が組長とやらに口添えしてくれたんじゃないかと思う。
なんでそう思うのか、自分でもよくわからないけど。

俺と本城はあれ以来一度も口をきいてないが、一触即発って訳でもなく、お互い無視しあっている感じだ。
多分ずっとこのままだろう。
お互いのためにもその方がいいと思う。

だけど、もし機会があればいつか聞いてみたい。
なんで俺を見逃したんだ?って。

でも聞くだけ無駄か。
どうせ本城は「なんのことだ?」って言うに決まってるから。



 
 
 
 
 
 
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