第27話 ナツミ 「分割」
 
 
 
「ノエル君、バイバァイ」
「また遊びにきてね!」
「また逆上がり教えてね!」
「うん。じゃあな」

たくさんの小さな手に送られて、
ノエル君は照れくさそうに保育園を後にした。

12月24日、クリスマスイブ。
ノエル君の保育園でのアルバイトが今日で終わった。
最初は渋ってたノエル君だったけど、なんだかんだ結構楽しんでた。
私は子供たちと一緒になって遊ぶ感じだけど、
ノエル君は敢えて子供目線になることなく、素で行く感じ。
それが逆に子供たちにもうけていた。

「ううう」
「・・・なんでナツミが泣いてるんだよ。ナツミは結局保育園でのアルバイト続けるんだろ?」
「そうだけど・・・今日でノエル君に会えるのも最後だと思うと・・・ううう」

駅への帰り道、私が号泣しているとノエル君は私の頭をポンポンと叩いた。

「俺となんていつでも会えるだろ」
「・・・会ってくれるの?」
「会いたくないなら会わないけど?」
「会いたい!」

夢中で答えた私に、ノエル君は「わかった、わかった」と言いながら笑った。

・・・会ってくれるんだ。これからも。

・・・嬉しい。

「あの・・・だったら、ノエル君にプレゼントしたい物があるんだけど」
「プレゼント?」
「クリスマスイブだし、ノエル君の誕生日だし」
「いいよ、そんなの。俺も用意してないし」
「いいの!どうしてもあげたい物があるの!」


私は、遠慮するノエル君を遠慮なしにあるお店に引っ張っていった。
そこは・・・

「携帯?」
「うん!ノエル君に携帯をプレゼントしたいの!」

ノエル君の学校は全寮制らしく、携帯がないととにかく連絡が取れない。
寮に電話するのも気が引けるし。

今までは毎日保育園で会えたから、携帯がなくても不便じゃなかったけど、
これからも私と会ってくれるなら、携帯を持っていてほしい。

「・・・そっか。そうだよな」
「うん・・・」
「ありがとう。お言葉に甘えるよ」
「いいの。ノエル君が携帯を持っててくれたら、私も嬉しいから」

私はノエル君と一緒にお店に並ぶ携帯を見て回った。

今まで携帯を買う時に値札を見ることなんてなかった。
欲しいデザインの携帯を見つけたら、お店の人に「これください」って言うだけだった。

でも、よく見ると携帯って高い!
安くても3万はする。
ちょいっといいな、って思う奴は5万以上。
信じられない!なんでこんなに高いの!

お金、足りるかな・・・

ノエル君へのプレゼントは、バイト代から出そうと決めていた。
カードを使えばどんなに高い携帯だって買えるけど、それじゃ意味がない気がする。
だって、私の親のお金だもん。
私の親からノエル君へのプレゼントみたい。

私は、私からノエル君へプレゼントをあげたい。

マックとかでちょっとは使っちゃったけど、まだ5万以上は残ってる。
たぶん大丈夫だ。


「これにするよ」

そう言ってノエル君が選んだのは、シンプルで薄いブラックの携帯。
電話とメールの機能以外には、カメラとテレビくらいしかついてなさそう。
値段も3万7千円と若干お安目だ。

「こんなのでいいの?もっと高機能なのがいいんじゃない?」
「携帯初心者だから、使いこなす自信ない」
「ふふ、そっか」

私がお財布からお金を取り出そうとすると、ノエル君がそれを制した。

「俺、携帯初心者だけど、この携帯会社の料金体系は知ってるよ」
「え?」
「携帯代って、一括でも払えるけど、たいていは月々の通話料と一緒に分割で払うんだ」
「分割?」
「そう。12ヶ月とか24ヶ月とか。利子は付かないし」

ノエル君はわざと意地悪っぽく言った。

「庶民は金を持ってないから、携帯を一括でなんてなかなか買えないんだよ」
「でも!じゃあ私、どうやってお金を出せばいいの?」

毎月の通話料と一緒に携帯代を分割で払うってことは、通帳とかから引き落とすんだよね?多分。
だったら、私、払えないじゃない!

「俺に金だけ渡してくれればいいよ」
「あ、そっか」

なるほど。

私はお財布から3万7千円取り出して、ノエル君に差し出した。
でもノエル君はそこから千円札を1枚だけ抜き取った。

「分割、だからね。後3万6千円。毎月千円ずつもらうよ」
「へ?」
「何ヶ月かかるかなー」
「・・・36ヶ月」
「正解。頑張って会い続けないとね」


・・・それって、
これから36ヶ月も、
ずっと会ってくれるってこと?

ノエル君・・・


「で、3年後の12月24日にはまた携帯をプレゼントしてね」
「・・・それも分割?」


ノエル君は、「もちろん」と言って笑った。



 
 *次回、最終話です。 
 
 
 
 
 
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