第8話 萌加 「予感」
 
 
・・・誰?

その女の人は、堀西の生徒じゃない。
どうしてそれが分かるのかというと、制服を着ていないからって言うのもあるけど、
どう見ても堀西に通う家柄の人じゃない。

歳は私と同じくらいだろうか。
顔もスタイルもパッとしない。
着ている服も、どこで売っているのか、いかにも安物って感じ。

健次郎の言葉を借りるなら「典型的な庶民」と言ったところか。


だけど、私の胸は不安でドキドキと音を立てた。


本城を見つけて嬉しそうな笑顔になる、女の人。
そして・・・その女の人と同じ表情の本城。

あんな本城、見たことがない。

本城は、学校の中で自分がどう見られているか知っているから、
明るくて気さくだけど、友達との間にもどこか壁を作っている。
いつも一歩引いてる、というか、本心を見せない、というか。

その本城が・・・
ホッとしたような明るい笑顔。

胸がザワついた。


本城はすぐにその女の人に近づき、笑顔のまま話しかけている。
・・・私にはあんな風に話しかけてくれたことなんて、一度もないのに。

二人は、駅には入らず、バス停の方へ向かった。
私も、思わずフラフラとついていく。

と。
女の人が、ポケットに入れられた本城の左腕に自分の腕を絡ませた。
照れくさそうな本城。
でも、嫌そうじゃない。

二人の声は聞こえないけど、口の動きと表情から何を話しているのかは容易に想像がつく。

『恥ずかしいだろ、やめろよ』
『えー?別にいいじゃん』
『・・・いいけど』
『あ。バスが来たよ。乗ろう!』

二人はちょうど来たバスに乗り込んだ。
一瞬迷ったけど、バスの中に結構たくさん人がいたから、私もバスに乗り、
二人から離れた場所に小さくなって立った。


・・・なんか、ストーカーみたい。


でも、気になって仕方がない。


私は二人を盗み見た。
相変わらず腕を組んだまま、楽しそうにおしゃべりしている。

堀西の制服を着た高校生の本城と、
安っぽい服の女の人。

あの人、
さっきは私と同じ歳くらいかなと思ったけど、よく見ると、多分年上だ。
だけど身長は、170センチ以上ある本城より30センチのモノサシ1つくらい低い。

はっきり言って、全然お似合いじゃない。
ってゆーか、不釣合い。

それなのに、二人の笑顔は物凄くお似合いに見える。


私は鞄を両手でぎゅっと握り締めた。




二人が降りたのは、5つほど先のバス停だった。
私も距離を置いてバスを降り、また二人の後をつける。

そこは、私は来たことがないけど、結構賑やかな駅前だった。

どこに行くんだろう?
・・・デート、かな。


だけど二人が入っていったのは意外な場所だった。
ここは・・・スーパーって言うとこだろうか?
大きな3階建ての建物の周りには「本日の特売!」みたいなノボリがところ狭しと立てられていて、
子連れの自転車のオバサンなんかがたくさんいる。

ひどく場違いな所に来てしまった気がして、
私は制服を隠すように鞄を胸の前で抱きしめた。

だけど二人は慣れた足取りでズンズン中へ進んで行く。

私も入っていいのかな?
いいよね?

キョロキョロしながら、とにかく入り口の前に立った。

自動ドアが開く。
・・・店員さんのお出迎えとかはなさそう。
勝手に中に入れってことなのかな。

入り口でモタモタしていると、後ろから来たオバサンに肩をぶつけられた拍子に中に入ってしまった。
オバサンは謝りもせず、スタスタと進んで行く。


やだなあ・・・こんなトコ。
でも、本城がここにいるんだ。


私は気を取り直し、辺りを見回した。

ズラッと並んだ野菜や果物。
奥の方にはお肉がある。

何これ?
キャベツ?
「一玉 158円」
って安い!!
レストランだったら、キャベツがちょこっと入ったサラダが5000円とかするのに!
きっとレストランのは特別なキャベツなのね。


私がキャベツに気を取られているうちに、本城たちは更に奥の方へ行ってしまった。
人やカートが多くって、見失いそうになりながらも私は慌てて追いかけた。



そこは日用品?売り場。

お鍋とかお皿なんかが置いてある。
二人はその一角でしゃがみこんで何かを見ていた。

こんなところに何の用なんだろう?

私はまた物陰に隠れて二人の様子を伺った。


『ねえ、これは?』
『デカ過ぎだろ』
『じゃあこっち』
『・・・キティちゃん?絶対ヤダ』
『かわいいのに。ワガママね』
『・・・』
『あ!これよさげ!』
『おお、いいね。これにしよう』
『うん!』

二人は散々悩んだ挙句、ようやく決めたらしいソレを手に、レジへ向かった。

『これ、お願いします』
『1500円になります』
『俺が払うよ』
『いいの。私が払う』


私は、レジの前に置かれたソレから目を離せなくなった。

それは・・・
黒くて四角い、お弁当箱だった。



 
 
 
 
 
 
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