第2部 第11話
 
 
 
「私も行く!」
「・・・」
「・・・」

私の堂々の邪魔者宣言に、ノエルさんは呆れ、
お姉ちゃんは驚いた。


何故か師匠と明日のデートの約束をしてうちに帰ってくると、
ちょうどノエルさんが、お姉ちゃんを迎えにやってきた。
海光の終業式が終わってすぐ急いで来たのか、制服のままだ。
せっかくのデートなんだから、お洒落すればいいのに。
でも、私には関係ない。
クリスマスイブだしノエルさんの誕生日だし、2人でどこへでも行ってしまえー、と、思ってた。

けど!
その行き先を聞いて気が変わった。
そしてノエルさんが制服のままの理由も分かった。

「海光!行ってみたいもん!」
「・・・海光なんて見てどうするんだよ。
堀西に比べたら質素だし、2号が見て面白いものなんて、何にもないぞ?」
「別に建物を見たい訳じゃないもん」

海光学園には、海光の生徒がいる。
つまり、将来のエリートがうじゃうじゃいるってことだ!

「柵木さんみたいなお婿さんを探しに行くの!」
「・・・」
「それに、普段は海光は学校関係者以外立ち入り禁止なんでしょ?」
「いや、学校関係者が一緒ならいつでも誰でも入れる。誰からそんなデマ聞いたんだよ」

偽・月島ノエルから。
あいつめ。嘘ついたな?
そりゃ一緒に海光へ行ったら、偽者だってすぐバレるからだろうけど。

「でもわざわざお姉ちゃんを迎えに来て、また海光に戻るの?海光で何するの?」
「今日は海光でちょっとしたイベントがあって・・・先生達にも、ナツミを紹介しときたいし」

なるほど。
ま、ノエルさんの目的なんてどーでもいいけどね。
でも、普段のノエルさんなら全力で私を除け者にするだろうけど、
今日はなんか勢いがない。
よく見ると、少し顔が赤くて眼が潤んでる。

「あれ?ノエルさん、もしかして風邪?」
「うん・・・そうらしい」
「鬼の各欄かくらんだ」
「おしい。使い方はあってるけど漢字が間違ってる。『撹乱かくらん』だ」

ちっ。
やっぱノエルさんはノエルさんだ。

私は、「鬼のカクランってどういう意味?」と首を傾げるお姉ちゃんと、
もはや説明する元気もないのか、げんなりしているノエルさんを残し、

「5分待ってて!着替えてくるから!」

と叫んで2階へ走った。






確かに海光は、堀西に比べれば質素だった。
中高一貫の学校だし全寮制だから校舎の他に寮や食堂なんかもあるみたいだけど、
一学年に生徒が50人しかいないから、全体的にこじんまりした印象だ。
それに何でも華美な堀西とは違い、余計な装飾はしない主義らしい。
どの建物も、シンプルな造りをしている。

でも、今日は何やら特別な日らしい。
海光の生徒はもちろん、私やお姉ちゃんみたいな外部者らしい見物人も敷地内に結構いる。

私達3人は人の流れに従って、運動場の方へと向かった。

「うわあー、綺麗!」
「凄い・・・なんか幻想的ね」

私とお姉ちゃんは運動場に足を踏み入れるなり、感嘆のため息をついた。
そこには、地面を埋め尽くす無数の光が揺れている。

キャンドルライトだ。

「海光では、クリスマスイブに毎年こうやって、運動場の地面にキャンドルを並べるんだ。
ほら、運動場の中央に大きなキャンドルが立ってるだろ?
あの火を小さなキャンドルに移して願い事をしながら地面に置く、
その火が消えることなく最後までキャンドルが燃え尽きたら願い事が叶う、って言われてる」
「へええ、ロマンチックね」
「もちろん、ただの迷信っていうか、生徒が勝手にそう信じてるだけだけどな」

それでも!本当に綺麗だ!

「私もキャンドル置きたい!」
「ああ、誰でもやっていいから。はい」

ノエルさんは運動場の端に置いてあるキャンドルを私とお姉ちゃんに一つずつ手渡した。

「ノエルさんはやらないの?」
「俺は、別に・・・」
「ノエル君、せっかくだから、一緒にやろうよ」
「・・・うん」

お姉ちゃんに促されてノエルさんもキャンドルを一つ手に取る。
そして3人で校庭の真ん中辺りへ歩いて行ったけど・・・

なんだかさっきからノエルさんが、お姉ちゃんをチラチラと見ている。

何か2人だけで話したいことでもあるんだろうか。
それなら私、正真正銘お邪魔虫じゃない。
正真正銘も何も、お邪魔虫だけど。

「・・・」

私は立ち止まって自分のすぐ横にキャンドルを置くと、
目を瞑り「素敵な彼氏ができますように!」と大きな声で叫んだ。
(周りから失笑されたけど)

「ノエルさん、お姉ちゃん。私、この光景全体を見たいから、向こうに行くね!」
「え?うん。迷子にならないでね」

お姉ちゃんじゃあるまいし。


私は小走りに2人から離れ、
校庭の隅にある木の下で足を止めて振り返った。

ノエルさんとお姉ちゃんは、地面にしゃがみ込んででキャンドルを並べて置いている。
そしてノエルさんだけが、
顔をお姉ちゃんの方に向けたまま立ち上がった。
お姉ちゃんも座ったままノエルさんを見上げる。

ノエルさんが口を動かした。

私にはノエルさんの声は聞こえないけど、
お姉ちゃんの表情からして、悪い話をしているわけではなさそうだ。

お姉ちゃんは、少し驚いたような顔をし、それから笑顔で頷き、またビックリしたような顔になる。
それから・・・涙ぐみながら立ち上がった。

そして今度はお姉ちゃんが口を開く。
その表情が段々真剣になり、お姉ちゃんの言葉を聞くノエルさんの顔が強張った。

お姉ちゃん、何を話してるんだろう?

ノエルさんはしばらく黙ったままだったけど、
やがてため息をつくと、小さく頷いた。
お姉ちゃんがホッとした表情になり、また笑顔になる。

・・・?

「寺脇様のお嬢様?」
「え?」

急に後ろから声をかけられ、私は文字通り飛び上がった。
振り向くと、そこには小さな男の子と手を繋いだ大学生っぽい男の人が立っていた。

誰だろう?
見たことあるような。
それにこの声は・・・

私がキョトンとしていると、
男の人は自分を見下ろし頭をかいた。

「あ、すみません。こんなラフな格好じゃわかりませんよね。柵木です」
「!!!柵木さん!!!」

本当だ!柵木さんだ!全然分からなかった!

てゆーか、やっぱり若い!
前うちに来た時はスーツ姿だったし、大人っぽく感じたけど、
今日はどこにでもいる大学生の兄ちゃんって感じだ。
まだ21歳なんだから当たり前か。
でも元々が幼い顔つきだし、
今日は右耳にピアスを付けてるから、ますます若く見える。

「こんなところで何をしてるんですか?」
「ノエルさんにつれてきてもらったんです。今日はこのイベントがあるからって」

私がノエルさん達の方へ目を向けると、
柵木さんもそっちを見た。

「もしかして、月島と一緒にいるのが・・・」
「お姉ちゃんです」
「・・・そうですか。かわいそうに・・・」
「あはは。柵木さんは何しに来たんですか?って、あれ?アメリカから戻ったんですか?」
「クリスマス休暇なんで、帰って来ました。毎年このイベントは家族で見に来るんですけど、
今年は妻の体調が良くなくて、息子と2人で来たんです」

柵木さんはそう言って、隣の男の子の頭にポンと手を置いた。
 
 
 
  
 
 
 
 
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