第2部 第20話
 
 
 
個人情報にうるさい昨今、
家の電話番号一つ調べるのもままならない。

師匠は携帯を持っていないし、私の携帯番号も知らない。
私は師匠の住んでいる場所も、家の電話番号も知らない。

こうなると、もうお手上げだ。
調べようがない。
だけどタイムリミットは迫る一方。

「そうだ!萌加に聞いてみようか?」

ということで、
お姉ちゃんが師匠の元カノ(?)の萌加さんに聞いてくれたけど、無駄足に終わった。
どうやら萌加さんは師匠と付き合っていた訳ではないらしい。
ってことは、萌加さんの片思いか。
やるな、師匠。

って、今はそんなことどうでもいい。

他にも、お姉ちゃんが何人かの友達に師匠の連絡先を聞いてくれたけど、
結局誰も知らなかった。

「マユミ。いつもどうやって師匠と連絡取ってたの?」
「さあ」
「・・・。一度、師匠に私の携帯番号は教えたんだけどな・・・かけてきてくれないかな」

お姉ちゃんがため息をついて自分の携帯を見た、その時。
突然携帯がブルブルと振るえ出した。

ディスプレイには「非通知」の文字が。

私とお姉ちゃんは顔を見合わせた。
まさか!

「はい!・・・師匠?」

おおお!グッドタイミングとはこのことだ!

私はお姉ちゃんから携帯をひったくるようにして奪い取ると、
自分の部屋へと駆け込んだ。


「し、師匠!」
「あれ?寺脇姉か?妹か?」

師匠の声だ・・・
って、おいおい。別に私は師匠に恋してる訳じゃない。
でもある意味「恋焦がれる」ほど待っていた電話でもある。
何と言っても四方八方探してたんだから!

私は胸を手で押さえて息を落ち着けた。

「妹の方よ」
「ああ、2号か。姉の方に変わってくんない?」

あれ。お姉ちゃんに用なの?
そりゃ、これはお姉ちゃんの携帯だけど・・・
私と連絡取るために、お姉ちゃんの携帯に電話してきたんじゃないの?

「冬休み前に、寺脇に数学の問題を教えて欲しいって言われたんだけど、俺わからなくてさ。
俺の兄貴が高校で数学教師してるから、昨日教えてもらったんだ。
だから寺脇にも、」
「わかったわよ!!」

私は携帯を耳から離し、顔の前に持ってきて大声で叫んだ。



で、5分後。

「マユミ・・・はい、携帯・・・」

お姉ちゃんが、私の部屋におずおずと入ってきて、
ベッドの上で体育図座りしている私に携帯を差し出した。

「お姉ちゃんの携帯でしょ。いらないわよ」
「師匠と話さなくていいの?」
「話す必要ないし」
「明日のパーティのことを、」
「知らないもん!!!」
「って、言ってるけど、どうする?師匠」

お姉ちゃんが携帯に向かって話す。

「・・・うん、なんか怒ってるみたい・・・うん。はい、マユミ」

お姉ちゃんが再び私に携帯を差し出す。

「師匠がマユミと話したいって」
「・・・」

私は渋々お姉ちゃんから携帯を受け取り、
ついでに目で「向こう行ってて」と言う。

お姉ちゃんは肩をすくめながら部屋から出て行った。
わざとゆっくり、携帯を耳にあてる。

「・・・はい」
「2号?何、怒ってるんだよ?明日のパーティってなんのことだ?」
「・・・うちのコンツェルンのパーティ。パパが、師匠も誘っとけって」
「あー、悪い。明日はうちの忘年会なんだ」
「うちって、家出人収集家さんの家?」
「うん」
「・・・あっそ、ならいいわ。じゃあね」
「ちょっと待てって」

師匠のため息が聞こえる。
ため息をつきたいのはこっちだ。

「俺、なんかしたか?」
「・・・キスしたじゃない」

そのこと自体を怒ってる訳じゃない。
だけど、自分でもよくわからないけどなんか腹立たしい。

「ああ・・・そっか、ごめんな」
と、師匠が・・・言わなかった。

「は?キス?」
「・・・」
「俺、キスなんかした?」

おい。
まさか。

いやーな予感がする。

「・・・覚えてないの?」
「あー、うん。かなり飲んでたからな」
「全然?」
「2号と一緒に車に乗ったよな・・・うん、そこまでは覚えてる。
気付いたら自分の部屋で寝てた」
「・・・」
「そっかー。俺、2号にキスなんかしたんだな。悪い、悪い」
「・・・」

私はさっきと同じように携帯を顔の前に持ってきて、
思い切り息を吸い込むと、

「師匠の馬鹿ー!!!死んじゃえ、このすっとこどっこい!!!!」

と、叫んだ。
 
 
 
  
 
 
 
 
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