第2部 第3話
 
 
 
「親の仇?」
「ああ」
「・・・」

声を聞いただけで分かるくらいだ。
本当なのかもしれない。

でも、だからってうちの中で仇討ちされちゃあ困る。

「分かった。ちょっと待ってて」

私は月島ノエルにそう言って応接室を出ると、足を忍ばせて自分の部屋に戻り、
ある物を取ってきた。

「はい。やっつけるなら、これでやっつけて」
竹刀しない?なんでこんなもの持ってるんだよ」
「私とお姉ちゃん、小さい時から剣道を習ってるのよ。二人とも有段者なんだから」
「・・・」
「聞いてないの?あんた、やっぱり偽者・・・」
「うるさい。とにかく、今はこっちが先だ」

月島ノエルは竹刀を手に取ると、再び壁に耳をあてた。
私も月島ノエルの下にかがみ込み、同じ体勢を取る。

・・・ん?隣の部屋の声がしなくなってる。

私と月島ノエルが目を合わせて首を傾げた、その時。


ガラッ!!


私達がへばりついていた扉が突然横に開き、
不意をつかれた私と月島ノエルは、二人揃って隣の部屋の中に転がり込んだのだった・・・





「おい、月島。俺がいつお前の親を殺したんだよ?」

黒いスーツの、ちょっとかわいらしい今風イケメン(つまり、私好み)のお客様が、
ソファで優雅に紅茶を飲んでる月島ノエルを睨む。

「言葉のアヤってやつですよ、アヤ」
「そんなんで殺されてたまるか」

私は慌てて竹刀を背中に隠す。

私好みのイケメンさんは、立ち上がってパパの方を向くと深くお辞儀をした。

「申し訳ありません、寺脇様。こいつ・・・この月島は私の後輩です」
「後輩?」
「はい。中学と高校の後輩です。
ここにいるのが私だと気付いて、少し悪ふざけをしたのだと思います」
「悪ふざけじゃありませんよ。俺は本気です」

イケメンさんがせっかく取り成してくれてるのに、
月島ノエルはことごとくそれをぶち壊す。

でも、パパは怒っていない。
というか、なんか面白がってない?

イケメンさんは、月島ノエルの横に座った。

「月島!お前も謝れ!」
「俺、寺脇さんには何も悪いことしてませんもん」
「商談の邪魔しただろ!」
「もう終わってたでしょ?」
「・・・」
「第一、こんなとこで何やってるんですか。
すぐに子供を作るって言ってたじゃないですか。
さっさとアメリカに戻って奥さんと励んできてください」
「・・・・・・」
「あれ?そう言えば奥さんにもらったピアス、つけてませんね。
もしかして、今日は大事な取引先との商談だから外してきたんですか?情けないなあー」
「・・・・・・・・・」

パパは、
飄々としている月島ノエルと、
うんざりした様子でため息をついているイケメンさんを見てクスクス笑っていたけど、
ふと思い出したかのように真面目な顔をして、月島ノエルに言った。

「月島君。身分証明書を見せてくれるかな?」

月島ノエルは、またこめかみを押さえた。


残念なことに結婚しているらしいイケメンさんは、
ジュークスというアメリカの大きなソフトウェア会社の営業マンだった。
名前は
柵木湊ませぎみなとさん。
月島ノエルの先輩・・・ということはつまり、海光の卒業生だ。

この前、あり得ない失恋をしたばかりにも関わらず、
「まだ21歳!?なんでそんな早々と結婚しちゃったのよ!?」と心の中で文句を言っている私。
自分で思ってるよりも、傷は浅いのかもしれない。

そして、パパは何故かこの柵木さん&月島ノエルのコンビを気に入ったらしく、
少し早めのお昼ご飯を4人で一緒にうちで食べることになった。

「ご馳走になってしまって・・・すみません」

テーブルについた柵木さんが恐縮すると、月島ノエルがすかさず突っ込む。

「何、猫かぶってるんですか」
「うるさい。黙れ、月島」

パパが一生懸命笑いを噛み殺す。

「いや・・・それにしても、どうやら君は本物の月島ノエル君みたいだね。安心したよ」
「さっきから、本物とか偽者とか、なんですか?それ」
「気にしないでくれたまえ」
「・・・」

気になるだろう。
でも、説明してやるのも面倒臭い。
そんな暇があるくらいなら、柵木さんのコップにお水のお代わりを入れてあげよう。

「あ。お嬢様、ありがとうございます」
「いえ・・・」

優しく微笑む柵木さん。
ああ・・・本当に、もったいない!

「ところで、どうして本当に月島がここにいるんですか?」

月島ノエルに聞いても無駄と思ったのか、
柵木さんはパパに訊ねた。

「ああ。月島君は娘の恋人なんだよ」
「なんですって!!!」

柵木さんはガタッと椅子から立ち上がると、私の両肩を掴んだ。

「お嬢様!早まった真似をしてはいけません!」
「あっ、あのっ」
「湊さん。俺の彼女は2号じゃありません。1号です」
「は?」

海光のくせして馬鹿な説明しかできない月島ノエルに代わって、
私が説明する。

「娘って私のことじゃないんです。姉のことです。私も、月島ノエルさんには今日初めて会いました」

偽者には何度も会ったけど。

「そうなんですか・・・でも、お姉様が・・・」

柵木さんが「なんたることだ」という感じで、フラッと椅子に座った。
が、すぐに毅然とした態度でパパに言う。

「寺脇様のお子様は、こちらのマユミさんと、マユミさんのお姉様のお2人ですよね?」
「そうだが」
「ということは、お姉様のお婿さんが、寺脇コンツェルンをお継ぎになる・・・?」
「将来的にはそうなるだろうな」
「!!!」

柵木さんが青い顔をしてまた立ち上がる。
面白い人だ。

「ダメです!月島はダメです!こんな外面だけが良い奴・・・!」
「外面だけでも良ければいいじゃないですか。湊さんは外面も悪いから、最悪ですよねー」
「お前、昔俺に、『外面がいいのは湊さんの唯一の長所』みたいなこと言ってただろ」
「そんなこと、言いましたっけ?俺も人を見る目がなかったんだなあ」
「月島!!!」

パパと私は声を上げて笑った。


あれ?
そう言えば、何か忘れているような・・・
ま、いっか。
 
 
 
  
 
 
 
 
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