第3部 第1話
 
 
 
「マジで許せない」

そう言ったのは私ではない。
有紗ありさだ。
え?誰って?
ほら、私のクラスメイトよ。

「マユミ、何1人でブツブツ言ってるの?」
「別に。で、誰を許せないの?」
「マユミ」
「は?」
「あんただけは、絶対許さない」

3学期の始業式。
それが久しぶりに会った友達に言う台詞?

まあ、お菓子片手にそう言われても「あっそ」って感じだけど。

「なんで私が有紗に恨まれないといけない訳?」
「だって!
的場まとば君てば、いくら私が言い寄っても『寺脇、寺脇』なのよ!」

「的場君」。
え?誰って?
えーっと・・・誰だっけ?

有紗がジロッと私を睨む。

「隣のクラスのイケメンよ!」

そんなのいたっけ?

「携帯会社の息子!」
「・・・ああ!思い出した!」

前、有紗が「的場君を喜ばそう」と携帯を買い換えたことがあったっけ。
そうそう、その時に私は偽・月島ノエルに気付いたんだ。

・・・嫌な思い出。
これだから的場は嫌いよ。

「マユミ、的場君のこと知ってるの?」
「全然」
「・・・」
「向こうだって私のことなんて知らないでしょ」

ところが有紗が目くじらを立てる。

「何言ってるのよ!的場君はマユミのこと好きなのよ!」
「あそー」
「あそー、って・・・マユミって全然モテないくせに、
どうしてよりによって的場君が・・・はあ」

なんたる言い草。
モテないのは事実だけど。

有紗が凄い勢いでポッキーを消費する。

「もう!せっかく気合入れてたのに!!」
「そんなこと私に言われても」
「マユミ!的場君と付き合う気!?」
「まさか。私、彼氏できたし」
「そう、よかっ・・・え?」

有紗の目が大きく見開かれたまま固まる。
ツチノコでも発見したかのようだ。

「えっ、マユミに彼氏?」
「うん」

一応。

「ええ!?堀西の人!?同級生!?」
「堀西の2年生。お姉ちゃんのクラスメイトなの」

名前は師匠・・・なんだろうか。
ま、いーや。

「どんな人!?」
「エロエロキス魔」
「・・・大丈夫なの、その人?」

さあ。


かる〜くてエロ〜イ師匠のことだから、
「付き合ってもいい」と言いつつ、どうせまた連絡してこないだろうと思ってたら、
お姉ちゃんに私の携帯を教えてもらったのか、結構マメに電話してくる。
師匠は携帯を持ってないから、私からは連絡できないけど、
私が「電話したいな」と思う時に、何故かタイミングよくかけてきてくれる。

それに、「本気じゃない」と言いつつ、
パパの誘いに乗って、お正月にはうちに遊びに来た。
普通、本気じゃないなら彼女の家に遊びに来たり、
彼女の父親に会ったりしないよね?

お互い本気じゃないと分かっている上で恋人気分を味わおうとしているのか、
本当にお酒が目的なのかは分からないけど、
それなりに私と「恋人」をしようとはしているようだ。

一応一緒に初詣も行ったし。
やたらキスしてくるし。

もちろんそれ以上は絶対許してないわよ!?

でもそこはやっぱりエロ師匠で、「付き合ってるんだから、いいじゃん」って感じだ。
「キス以上やったら、本当に結婚だからね!!」と強く言うと、いつも渋々諦めるけど。

私のこと、本気で好きって訳じゃないのに、どうしてそんなにしたいんだろう?
男の子ってそういうもんなんだろうか。

一度、ノエルさんと会わせてみたかったけど(なんか、気が合いそうじゃない?あの2人)、
あれよあれよと言う間に、ノエルさんの出発が明日の夜に迫っており、
2人の対面は実現しなさそうだ。
もし、師匠が私に手を出してきて本当に結婚なんてことになったら、
いずれは兄弟として対面することになるだろうけど。

あ。もちろん、「したら結婚」なんてのも冗談よ?
でも本気でそう言っとかないと、師匠は聞き分けてくれないもんな・・・


「すごい、ラブラブじゃん」

有紗がいつの間にか空になったポッキーの箱を机の端に追いやり、
今度は大袋のキットカットを鞄から取り出す。

学校に何しに来てるんだ。
私が言うのもなんだけど。

「ラブラブっていうの?愛はないんだよ?お互い」
「マユミはその人のこと全然好きじゃないの?」
「・・・」

うーん・・・どうなんだろう。
好きか嫌いかと言えば好きだけど、
愛してるかどうかと聞かれると、なんかそういう感じとは違う。

でも、キスされるのも、師匠がふざけてそれ以上求めてくるのも、イヤではない。

「今は、お互い軽い付き合いを楽しんでる感じかな」
「・・・何をそんな遊びなれた人みたいなこと言ってるのよ・・・あ、的場君だ!」

有紗が
天晴あっぱれな視力で廊下の的場を見つけ、
天晴れな素早さでお菓子を鞄に放り込む。

そして、これまた天晴れな聴覚で的場が有紗の声を聞きつけ、
自分の教室でもないのに堂々と入ってきた。

「やあ、有紗。・・・と、寺脇。マユミって呼んでいい?」
「私、彼氏以外の男の人には名前で呼ばれたくないから、苗字で呼んで」

すると的場は馴れ馴れしく、「えー?いいじゃん」とか言い出した。
同じ「いいじゃん」でも、師匠の「いいじゃん」とは違って随分と軽い。
いや、師匠も軽いんだけど・・・的場は「チャラい」。
見た目も、イケメンといえばイケメンかもしれないけど、
師匠と比べるとギャル男(古い?)並にチャラい。

師匠は表面は軽いけど、中身は真面目でしっかりしてるのよ、多分。

私は携帯に付けられている犬のストラップを見た。
師匠からのプレゼントだ。
どこにつけようか迷ってたけど、師匠が「携帯ストラップなんだから携帯に付けろよ」と、
至極当然のことを言い出したので、「それもそうね」と携帯につけることにした。
「もし落としたら、また買ってやるよ」って言ってくれたし。

そう言われた時、ふと気付いたのだけど。
私が師匠にこれを貰ったのは、12月25日だ。
師匠とデートすることが決まったのも、師匠に12月25日が私の誕生日だと言ったのも、
その前日の12月24日。
つまり師匠は、1日の間に私へのプレゼントを用意してくれたのだ。
安い物ではあるけど、お金のない師匠にとっては高い買い物だったに違いない。

それに、あの時はまだ私と師匠は付き合ってなかった。
師匠に何か下心があった訳でもないだろう。
師匠はただ純粋に、
「誕生日だしプレゼントでも買ってやるか」と、
「少しは喜ぶかな」と、
私にプレゼントを買ってくれたんだ。

師匠ってそういう人なんだよね。


そう言えば師匠、今日も部活かな・・・
待ってようかな・・・


「おーい、寺脇。聞いてる?」

ぼんやりと師匠のことを考えてたら、
目の前で手がヒラヒラと振られた。
的場だ。

「え?何?聞いてなかった」
「こんな目の前で話してるのに抜けてるなあ。そういうとこが可愛いんだけどさ」
「・・・・・・」

ウインクでもしかねないお寒い的場に、
思わず顔が引きつる。

ハッ!
有紗!

私はおそるおそる有紗の方を見たけど・・・何故か笑顔。
なんで?

「今度みんなで旅行に行こうって話をしてたのよ」
「・・・ふーん」
「マユミもも・ち・ろ・ん、行くわよね」

笑顔の有紗の目から、
「1人だけ幸せになるなんて許さないからね!」光線が発せられる。

・・・怖すぎる。

私は「か、考えとく」と引きつった顔のまま答えたのだった・・・。

 
 
 
  
 
 
 
 
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