第7話 合コン
 
 
 
生徒は冬休みでも、教師には仕事がある。
私は職員室の自分の席で、改めてC組の進路希望表を見た。

勉強に関してはさっぱりな生徒達だけど、
自分の進路については、本当に真剣に考えてると思う。

病院の跡取りは医学部へ、
自動車メーカーの跡取りは工学部へ、
なんていうのは、もちろんのこと、
華道の家元の跡取りは、本人は大学へ進学したそうだったけど、諦めて家で修行に入ると言う。

和田君は経済学部経営科で、会社経営について学ぶ。
石黒さんのように養子をもらうことを期待されている女の子も、
短大の服飾科に進み、花嫁修業をするようだ。


石黒さん・・・
そうか。例え愛し合っていたとしても、石黒さんは本城君とは結婚できないんだ。
本城弁護士事務所の跡取りである本城君は、石黒家の養子になれないから。

石黒さんもそれはわかっているはず。
そうと割り切って遊ぶことはできるだろうけど、本城君のことは本気みたいだった。
いずれ他の男とお見合いしないといけないと分かっていながらの恋は、辛いに違いない。
でもそれが、石黒家の一人娘として生まれてきた彼女の運命だ。
贅沢三昧で育ててくれた親への恩返しだ。
逆らうにはよほどの覚悟が必要だろう。


だけど、好都合とでも言うべきか、本城君は家を継ぐ気がない。
いっそ石黒さんと結婚して石黒家の養子になれば、将来の心配はいらない。
ただ、問題は本城君が石黒さんに興味がないということ。
うまく行かないものだ。


「神谷先生ー」
「あら?和田君?」

思わぬ来客に驚き、私は慌てて進路希望表を裏返した。

「どうしたの、冬休みなのに」

私服姿なのに堂々と職員室の椅子に座る和田君。
既に大物の風格だ。

「寮の女子を合コンに誘いに来た」
「・・・相変わらずね」
「先生も来る?」
「間に合ってます」
「えー?堀西大の男も来るよ?上手く行けば玉の輿じゃん」
「それを言うなら、和田君と結婚する以上の玉の輿はないわね」
「まーね」

和田君は堀西の中でも、かなりセレブだ。
お小遣いってどれくらいなんだろう。

「真弥も来るし」
「真弥?ああ、本城君?」
「そう」

そう言って、職員室の入り口辺りを指差す。
そこには和田君と同じく私服姿の本城君が。

うーん。私服だと、本当にどっかのモデルだ。
そっか。本城君の場合、そういう進路もありだな。

「・・・和田君にはありえないけど」
「なんか言った?」
「いえ、何も」

和田君も見た目はそこそこいいけど、なんせそのキャラクターが特徴的過ぎて、
顔に目が行かない。
それに、さすがに本城君のように、モデル並とは言えないし。

和田君が手招きすると、本城君も職員室に入ってきた。
私服姿の学生が二人もいるとさすがに目立つけど、
もう年末で有給の教師も多く、職員室はガランとしてるから、まあいっか。

「先生も合コンに行くってさ」
「行きません」

本城君は、あはは、と楽しそうに笑った。
和田君には心許せるのか素を見せているらしい。

「先生は彼氏がいるんだってさ」
「え!?そうなの、先生!?」
「あのね。私、25歳よ。彼氏くらいいてもいいでしょ」
「えー、いなさそうなのに」
「失礼ね」

和田君は笑いながら椅子から立ち上がると、本城君に言った。

「俺、寮に行って来るから、ここで待っとけよ」
「ああ」

和田君が鼻歌を歌いながら(下手なんだから・・・)職員室を出て行くと、
本城君はコートのポケットに手をつっこんで、私の机にもたれかかった。

「合コン、ね」

私がわざと嫌味っぽく言うと、本城君は肩をすくめた。

「宏曰く、合コンもビジネス、だってさ」
「ビジネス?」
「コネ作り」
「・・・ああ、なるほど」

確かに和田君みたいな人の場合、ほうぼうにコネを作っておくと将来役立つのかもしれない。
ただ遊びまくってるだけかと思ったら、意外と考えてるんだ。

「でも、目的の大半は女の子でしょ」
「そりゃあね。でも宏は堀西以外の女との合コンの時は、自分の身分を隠してるよ」
「え?どうして」
「Sビール次期社長の肩書き目当てに近寄ってくる女は面倒くさいんだって」

なんて擦れた高校生だ。
いや、そんなことを気にしないといけないなんて、大変なのかもしれないけど。

「本城君は隠さないの?」
「隠すも何も、俺の家くらいの肩書きじゃ、なんの魅力もないし」

・・・うーん・・・
確かに、本城君は和田君と違って、堀西の中では低所得者層だ。
といっても、もちろん庶民から見ればじゅうぶんセレブだけど。

「ねえ、本城君って月にお小遣いどれくらい貰ってるの?」
「小遣い?うち、親が厳しくて少ないよ。5万」
「5万!?5千円じゃなくって!?」
「5千円ってどこの小学生だよ」
「私、高校の時、5千円だったもの!」
「・・・携帯代も払えないんじゃないの?」
「私の時代は、携帯なんてなかった!」
「・・・オバサン」
「なんですって!!!」

私は思わず定規を本城君の喉につきつけた。

「・・・暴力反対」
「うるさいわね!・・・ねえ、ちなみに和田君はいくらなの?」
「宏は小遣いなんてもらってねーよ」
「へ?」
「親のブラックカードを無制限に使ってる。たまに、自販機で『なんでカードが使えないんだ』とか言って、
俺に小銭せびってくるけど」
「・・・・・・」

私が顔を引きつらせていると、本城君はお腹を抱えて笑った。


って、あれ?和田君も本城君も、職員室に何しに来たんだっけ??


  
 
 
 
 
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