第1部 第11話
 
 
 
日曜日。

私は、この前茜と一緒に買ったワンピではなく、Tシャツとジーパンという、
なんとも色気無い格好で家を出た。

行き先も図書館と色気がないんだからピッタリだ。
お陰でお兄ちゃんも前みたいに妬いたりしてくれなかったけど。

ちぇっ。


だけど、待ち合わせ場所である図書館の入り口で、さすがの私も後悔した。

「みんな、気合入れすぎ。勉強しにきたんでしょ」
「そうだけどー」

私服はパンツスタイルが多い茜も、今日はスカート。
世羅と友香は元々かわいい格好が好きだけど、
今日はヘアスタイルまで揺る巻きでビシッと決まってる。

でも決まってるのは女子だけじゃない。
普段はブレザー姿の男子も私服になると急に大人びて見える。
天野もお洒落なカッターシャツにサマーブーツで、黙っていれば中々かっこいい。

が。
私と同じく気合入れなさ過ぎな男子が約一名。
違った、約一匹。

「上野動物園はあっちよ、森田」
「三浦も一緒に行こーぜ。お前はチンパンジーのオリだ」
「・・・」


でも、さすがに私も森田も中間テスト1週間前にのんびりと動物園のオリに入っているわけにはいかない。
仕方なくみんなでゾロゾロと図書館に入り、席につく。

ところが、私は一番端の壁際で大人しく勉強しようと思ったのに、
天野が隙なく私の隣に座ろうとした。

茜!助けて!こっち来て!

そう心の中で叫んだけど、
薄情者の茜は、なんか男子達としゃべってるし。

ふと目をやると、天野の後ろに森田が見えた。

「サル!じゃなかった、森田!ちょっと数学教えなさいよ!!」
「・・・それが人にモノを頼む態度かよ・・・」

森田は呆れながら、でもなんとか天野より先に私の隣に座ってくれた。

「チンパンジーなんかが横にいたら、勉強できねー」
「そうね。図書館なんて、サルとチンパンジーの来る所じゃないわよね」
「・・・」
「はい。これとこれ。教えて。あんた、数学得意でしょ?」
「これとこれ、って。昨日、授業で先生が説明してただろ」
「寝てたもん」

だって、本城先生の数学じゃなかったから。
本城先生は数学?の担当だけど、昨日は数学Aで他の先生だったのだ。

「誰の授業でも聞いとけよ」
「過去は振り返らない!ほら、教えて」
「へえへえ」

私と森田は、教科書の上に頭を寄せた。
森田が小声で説明を始める。
テスト範囲だから、私も一応マジメに聞いてみる。

「ふんふん、なるほど。そーゆーことか」
「わかったか?」
「なんとなく」
「・・・」

いや。正直、よく分かった。
森田って本当に頭いいのね。
それに教え方が上手。
なんか、本城先生の教え方と似ている。


その時、また私の頭の中で、点と点が線で繋がった。
もしかして、学校にいる森田の血縁者って本城先生!?

・・・違うか。顔が似てなさすぎる。
片やモデル、片やサルだもんね。



それから私はしばらく黙って勉強してたけど、また分からないところが出てきて、
無意識にシャーペンでノートをトントントンと叩いた。

・・・いけない!

慌てて叩くのをやめる。

これ、分からない問題がある時の私の癖らしい。
お兄ちゃんに勉強を見てもらっている時に指摘された。

うるさい場所ならいいけど、静かなところだったら響くからやめろって言われたんだっけ。

そう思って、私がシャーペンを持ち直した時、森田がまた小声で声をかけてきた。

「なんだよ。またわかんねーのかよ」
「・・・うん。英語の長文だけど」
「どれ?」

森田は私の手から英語の教科書を取り上げると、しばらく真剣にそれを読み、
長文の途中にスラッシュを入れた。

「ここ。このwhichは関係代名詞で、主語みたくなってる」
「おー・・・関係代名詞ってなんだっけ?」
「・・・お前、明日から居残れ。勉強だ」

なんでやねん。
そう突っ込む前に私のお腹が鳴った。

「・・・」
「休憩時間だって」
「・・・」
「ほら、3時ピッタリ」
「・・・すごい腹時計だな」

携帯の時計を見ながら森田がため息をついた。





「ねえ、そう言えば、森田って朝日ヶ丘に親戚か何かがいるの?」

図書館を出たところの自販機でジュースを買って、
私と森田は図書館の入り口の階段に座った。

「え?いないけど」
「じゃあアレはガセネタだったんだ」
「アレ?」
「うん。森田が入試トップだったのに、血縁者が学校にいるから入学式で新入生代表やらなかったって噂」
「あー。半分本当」
「半分?」

森田がジュースを一口飲んだ。

「俺の父さん、昔、朝日ヶ丘で教師やってたんだ。今は別の学校に勤めてるけど」
「え?そうなんだ」
「うん。で、無難にってことで、俺は外された」
「ふーん、そっか。残念だったね」
「え?」
「代表やってたら、自分の縄張りをもっとしっかり持てたのに。サルには死活問題でしょ」
「あのな」

森田は苦笑いしながら立ち上がり、ジュースの缶をポンとゴミ箱に放り投げた。

「さ、勉強の続きやろうぜ。天野が夕飯は焼肉行きたいって言ってたし」
「・・・」

またファブファブしまくらなきゃいけなさそうだ。
 
 

  
 
 
 
 
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