第3部 第25話
 
 
 
歓声と共に、無数の花びらと羽が空を舞う。
青い空にその白い色がとても良く映える。

が。

その中央に立つ2人の表情はぎこちない。
というか、驚きのあまり、固まってる。

「せんせー、おめでとう!」
「・・・」
「先生と月島が付き合ってたなんて知らなかった!しかも、結婚するなんてな!おめでとう!」
「・・・」
「その人が噂の先生の彼女?ってゆーか、奥さんかあ。綺麗な人ですね!」
「・・・」
「ぷぷ、タキシード、似合ってますよ」
「・・・」
「月島さんも、すっごい綺麗!あ、もう月島和歌じゃなくて、本城和歌なんだね」
「・・・」

2人きりの式を終え、先生と和歌さんが教会から出てきたとたんにこの大騒ぎ。
顔の一つも引きつらせたくなるだろう。

「歩・・・三浦・・・なんだ、これは・・・」
「ははは。なんか、大袈裟になっちゃってさ」


最初は、森田1人でこの結婚式を準備するつもりだった。
そこに私が加わり、お兄ちゃんを巻き込んだ。
更に、お兄ちゃんの同級生である元3年5組の人たちが加わった。
そして、どうせならと言うことで、現在の1年2組の生徒たちにも声を掛けた。

結果。
最初の予定より、かなり豪華な式を準備することができた。
そして式の間に、こっそりここに集まった人の数は、70を下らない。

2人の人柄の成せる業だろう。

「先生、奥さん、こっち向いて!写メ撮るから!」
「や、やめろ」
「ダーメ。・・・よし!バッチリ!他のクラスの子にも送っとくね!」
「やめろ!!!」
「あ。杉崎先生が絶対送ってって、アドレス教えてくれたんですけど、送っていいですか?」
「ぜっっったいやめろ!!!」

もう2人を囲んでお祭り騒ぎだ。
そしてその人ごみを掻き分けて、1人の女の人が和歌さんに抱きついた。

「和歌ー!おめでとう!!」
「穂波!・・・ありがとう。このドレス、凄く気に入ったわ」
「うんうん、似合ってる・・・よかったあ〜〜〜」
「そんなに泣かないでよ・・・お腹の子に障るわよ?あ、またこんなとこで陣痛起こさないでね」
「もう・・・まだ大丈夫よ。予定日までまだ2週間あるし」
「に、にしゅうかん!?何やってるのよ!」
「だって〜〜〜ううう」

ふふ、相変わらずだなあ、西田さん。


私と森田は、少し離れたところでそんな光景を眺めていた。
もちろん、お兄ちゃんとヒナちゃんの姿もその中にある。
お兄ちゃんの代の人たちは、先生だけでなく和歌さんのことも知ってるから、
一様に「この2人が結婚するなんてすごい!」と言った感じだ。

制服姿で携帯片手に騒いでいるのは、1年2組の生徒たち。
任意にもかかわらず全員参加だ。
みんなは和歌さんのことは知らないけど、
とにかく「本城先生が結婚した!」と言うことと、先生のタキシード姿に大興奮している。

そして、最初はかなりぎこちなかった先生と和歌さんも次第になれてきたのか、
写真撮影に応じたりしている。

「頑張って準備した甲斐があったね。2人とも幸せそう」
「ああ。いいもんだな、結婚式って」
「・・・うん」

森田は何気なく言ったんだろうけど、妙に意識してしまう私。
馬鹿だな、と自分で突っ込んでおこう。


その時、人だかりの中から、和歌さんが出てきて私達の方へ歩いてきた。

「舞ちゃん」
「はい」
「これ、舞ちゃんにあげる」

和歌さんはそう言って、私にブーケを差し出した。

「え、でも・・・」
「今日はありがとう。結婚式はするつもりなかったけど、やっぱりやってよかった。
歩君と舞ちゃんのお陰よ。このブーケ、どうしても舞ちゃんに貰って欲しいの」
「・・・ありがとうございます」

私は白いブーケを和歌さんの手からそっと受け取った。

牧師さんのさっきの話だと、ブーケは本来、男の人が女の人にプロポーズする時に渡す物らしい。
つまり、先生から和歌さんへのプロポーズの証なんだ。

そんな大切なもの、私なんかがもらっちゃっていいのかな・・・


私が悩んでいると、森田が急に妙なことを言い出した。

「和歌さんから三浦へのプレゼントは二つ目だな」
「ふふ、そう言えばそうね」

和歌さんも相槌を打つ。

「え?私、和歌さんに何か貰いましたっけ?」
「そっか。舞ちゃんは知らないのね。
小学校の頃、歩君からまりもキティちゃんのキーホルダー貰ったでしょ?
あれ、私が歩君に、修学旅行のお土産としてあげたものなの」

は?

なに?

なんて?


私がポカンとしているのに気付かず、森田が何故か慌てて付け足す。

「でもさ、男の俺がそんなの持ってるのも変だろ?だから三浦にあげたんだよ」
「・・・」
「その時は、歩君がキーホルダーをあげた女の子が、三浦君の妹だなんて知らなかったけど。
ほんと、すごい偶然よね。こないだ先生から聞いてビックリしちゃった」
「そうだよな。俺もまさか三浦の兄貴が和歌さんの同級生だとは思わなかったよ」

和歌さんと森田は、「世の中狭いなー」とか言いながら笑い合う。

って、待て。
何それ。

「和歌ー!一緒に写真撮ろう!」
「うん!ちょっと待って!・・・じゃあ、後でね。本当にありがとう」

和歌さんはそう言って私にブーケを手渡すと、再びみんなの輪の中へ戻って行った。
いつも通りの森田と、全然いつも通りじゃない私の2人を残して。
 
 
  
 
 
 *次回、最終話です。
 
 
 
 
 
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