第11話 怒り
 
 
 
なんだろう。


私は暗くて寒い廊下を急いだ。
すっかり秋も深まって、まだ遅くないのにもう真っ暗だ。


今朝、突然三浦君に「放課後、話がある」と、使っていない教室に来るように言われた。
でも、三浦君から私への話なんて、内容が全く想像できない。
学級委員のことならわざわざ呼び出さなくてもいいだろうし・・・



4階の一番奥の小さな教室。
ここは、基本的には使われておらず、
入試の時の面接とか、特別な授業の時にだけ使われる。
私も、入るのは2度目だ。

私はそっと扉を開いた。
中は明かりがついておらず、まだ三浦君は来てないみたい。

・・・寒い。
エアコンはないけど、せめて電気だけはつけておこう。

そう思い、壁に手を這わせて電気のスイッチを押した。


「!三浦君!」
「・・・飯島」

ビックリした。
教室の中に三浦君がいたのだ。
真っ暗な中、一番後ろの窓際の机の上に、足を組んで座っていた。

「三浦君・・・どうしたの?明かりもつけずに」
「・・・別に」

無表情な三浦君。
機嫌が悪いらしい。

今日の昼間、1組ではいつもの三浦君だったのに。

「あの・・・話って何?」

放課後、好きな男の子に呼び出される・・・
って、ロマンチックな状況なのかもしれないけど、
とてもじゃないけどそんな甘い雰囲気じゃない。

私は、何故か怒られるような気がして身構えた。

三浦君がボソッと言った。

「西田さんに振られた」
「・・・」
「待つのもダメだってさ。彼氏のことしか考えられないらしい」
「・・・」
「なんでだろーな。どうせ、別れるのに。別れてから俺と付き合えばいいのに」
「・・・」
「ま、そもそも俺のことが嫌いなのかもしれないけど」
「そんなことないと思う!」

三浦君は右目だけ細めて私を見た。

「そんな・・・三浦君のことを嫌いな人なんていないよ」
「そう?」
「うん・・・西田さんは、ただその彼氏のことが大好きなだけだよ」
「ふーん」
「あの・・・残念だったね・・・でも、三浦君なら、」


ガタッ!!


突然三浦君が、机を蹴るようにして立ち上がり、私の方へ大股で近寄ってきた。
相変わらず無表情だけど、凄く怖い。

私は思わず、壁を背にして身を縮めた。


三浦君は私のすぐ目の前で止まった。

「三浦君なら、何?」
「・・・」

口調は穏やかだけど、明らかに怒ってる。
私は口を開けなかった。

「俺なら、すぐに彼女ができるって?」

コクコクと頷くしかできない。

「そうかもな」

三浦君は吐き捨てるように言った。

「でも、飯島。お前、口ではそんなこと言ってるけど、本当はいい気味だとか思ってんだろ?」
「!そ、そんなこと・・・!」
「ない?でも内心、喜んでんだろ?好きな男が失恋したんだから、飯島には絶好のチャンスじゃん!」


・・・怖い。
言葉遣いも顔つきも、私の知ってる三浦君じゃない。

足が震える。


「いつもは『私、三浦君が幸せならそれでいいわ』みたいな顔してるくせに、
いざ俺が振られたら、嬉しいのかよ!?」
「・・・」
「飯島も他の女も所詮そんなくだんねー人間なんだよな!」
「・・・」
「残念だったね、なんて思ってもいないこと言いやがって!!ムカつくんだよ!!!」

三浦君は大声で怒鳴ると、教室から出て行った。


私は・・・床に座り込み、泣くことしかできなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system