第15話 俺と・・・
 
 
 
「一緒に帰ろうよー?」
「今日は用事があるから待ってらんない」
「友達は一緒に帰るものだよ?」
「・・・どこの小学生よ」

奈々は呆れて笑った。

「今日は本当に急ぐの。ごめんね」
「デート?」
「雛子・・・怒るわよ?」

もうちょっと奈々をからかっていたかったけど、私も今からしなきゃいけないことがあるので、
仕方なく「バイバイ」になった。


あれ以来、私と奈々は本当に「友達」になった。
今までほとんど話していなかったのが不思議なくらい。
お昼ご飯も毎日一緒に教室で食べてるし、
何より奈々は、
「飯島さんとあんまり仲良くしないほうがいいよ」と言う友達に怒って、
いつも私と一緒にいてくれるようになった。

お陰で奈々は私同様、みんなから避けられてるけど、そんなことは全然気にしてないみたいだ。
そんな奈々を見てると、私も三浦君やみんなに避けられてるのなんてどうでもよくなってきた。

だって、奈々と話しているだけでじゅうぶん楽しいし、
溝口君も今まで通り話してくれる。

この前溝口君に「溝口君も、私の友達みたいだね」って言ったら、
「今更?」とか言って何故か呆れてたけど・・・

「友達」って難しい。



でも、今の私にはそれ以上に難しい事がある。
目の前のプリントの山だ。

来月・・・つまり、来年の1月・・・にある、
寒中ウォークラリーの行動予定表や当日の持ち物が書かれたプリントたち。
これを38セットにまとめて、明日配らないといけない。

学級委員の仕事だ。

三浦君に嫌われてしまってから、学級委員の仕事は私一人でやっている。
その方が気楽だし、自分のペースでできる。

寂しくいないことはないけど・・・
今三浦君と2人きりなんて、息が詰まりそう。


きっちりとプリントの角を揃えてホッチキスで止める。
1セット作るのに約2分。

この分じゃ、全部終わるのに1時間以上かかる。

でも、いいや。
別に急ぐ必要もない。
せっかくだし丁寧にやろう。

そう言えば、1学期の初めにも三浦君と同じ作業をやったな。
三浦君は器用で、あっと言う間に1セット作っちゃうんだよね・・・


「飯島」

・・・え?

聞き覚えのある声に驚いて、教室の扉の方を見た。
そこには・・・


三浦君。


「何?」

私はできるだけ動揺を隠してそう言った。
上手く隠せたと思う。
完璧に普通だ。

・・・あれ?
私、今、動揺したのかな?

随分、あっさり「普通」にできたけど。

三浦君もちょっと驚いたようで、
何も言わないまま私に近づいてきた。

そして私の前に座ると、プリントを揃え出した。

「いいよ。私がやるから」
「これ、学級委員の仕事だろ。俺の仕事でもある」
「・・・ふふ」
「・・・なんだよ?」
「いいよ、今更。大丈夫。一人でできるから」

三浦君は明らかにムッとした表情になった。
でもこんな三浦君も見慣れたせいか、怖くない。
それどころか奈々が言ってた「裏・三浦」を思い出して思わず笑ってしまった。

「だから。なんで笑うんだよ」
「ふふ、ううん。なんでもない」

どうやら今は裏・三浦モードらしい。
私しかいないから、当然か。

だけど三浦君は私の言葉を無視して、プリントを揃え続けた。

「相変わらず、上手だね」
「飯島は相変わらず下手だな」
「・・・」
「先生に学級委員の仕事任された時、面倒くさいから、
俺のこと好きでなんでも言うこと聞きそうな飯島を誘ったのに、
全然使えなくて、すげーガッカリした」

そっか。それで私に「一緒にやろう」って誘ってくれたんだ。
一人で喜んじゃって・・・私ってほんと、馬鹿だなあ。

「とろいし、不器用だし、つまんねーし」
「・・・だよね」

不思議と、前に三浦君に「ムカつく」と言われたときほど、堪えなかった。
ううん、全然気にならない。
私なんかを誘った三浦君に同情しそうな勢いだ。

「・・・なんで、そんな面白そうなんだよ」
「三浦君も、人を見る目がないなあ、って思って」
「・・・そうだな。もっと使える奴を選べばよかった」

それからまた三浦君はしばらく黙っていたけど、
ふと呟いた。

「飯島。俺のこと怒ってないのかよ?」
「どうして?」
「あんなこと言われて・・・みんなにも避けられて」
「怒ってないよ。むしろ感謝してる」
「感謝?」
「うん。お陰で奈々と・・・高山さんと友達になれたから」
「高山?ああ・・・そう言えば最近一緒にいるな」

知ってたんだ。

「俺、あいつ苦手」
「お互い様だと思うよ」
「・・・」

三浦君が私を睨む。
だから。そんなことしても怖くないって。

「あんな奴とつるむなよ」
「あんな奴、って・・・それに、私、今は他に友達いないし。どうしてそんなこと言うの?
私が誰と仲良くしても、三浦君には関係ないでしょ?」

奈々のことを悪く言われて、私は思わず三浦君に強く言い返した。

三浦君も、まさか私にこんな態度を取られると思ってなかったのか、少し怯む。
でも、すぐに反撃してきた。

「うるさい。あんな奴、は、あんな奴、だ」
「だから、そんな言い方・・・」
「あんな奴とはつるむな。その代わり、」
「その代わり?」
「俺と付き合え」



 
 
 
 
 
 
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