第2話 学級委員
 
 
 
「飯島さん」

え?


望ちゃんと学食から戻っておしゃべりしてたら、突然頭の上から声が降ってきた。

「飯島さんて、クラスで何の係もしてないよね?」
「・・・」

私は金魚みたいに口をパクパクしながら、ただ頭を縦に振る。

「じゃあ俺と一緒に学級委員やらない?さっき先生に、『男子はお前がやれよ。女子も選んどいて』、
って丸投げされて困ってるんだ」
「・・・」
「あ。もちろん、嫌ならいいけど」

今度はブンブンと頭を横に振る。

「や、やります・・・!」
「ほんと?ありがとう、助かるよ。1年間、よろしくね。で、早速なんだけど、放課後仕事があるから、
ちょっと残ってもらってもいい?」
「は、は、はい!」

私と望ちゃんは、去っていくその後ろ姿を呆然と眺めた。


「・・・ちょっと、雛子。いつの間に三浦君と仲良くなったのよ?」

望ちゃんがジロッと私を睨む。

「さあ・・・」

仲良くも何も、三浦君と話したことなんて一度もない。
まだ、昨日始業式があったところだし、席も離れてるから、私の存在なんて知らないはずなのに。

だけど・・・

私は、両手で両頬を押さえた。
熱い。

「雛子ってば、真っ赤」
「う、うん」
「いいなー、三浦君と学級委員なんて!」

望ちゃんは本当に羨ましそうだ。

ど、どうして私を選んでくれたんだろう?
何の係もやってなくって、もっとかわいい女の子なんてたくさんいるのに。
望ちゃんだってそうだ。

だけど、どんな理由であれ、嬉しい。
学級委員なんてしたことないけど、頑張ろう。





「これを、ホッチキスでとめればいいから」
「う、うん」

放課後。
三浦君と私は誰もいない教室で、向かい合って座っていた。

目の前には大量のプリント類。親への年間行事予定や連絡のようだ。
1種類ずつ、計4枚を1セットにしてホッチキスで左端を止める。
それをクラスの人数分、38セット作ればいいらしい。

いくら不器用な私でも、これくらいはできる。

でも出来上がった物を見ると、何故か三浦君が作ったのと私が作ったのはまるで別物だ。
三浦君が作ったのは角がきちんと揃ってるし、ホッチキスの角度も全て同じ。
一方私が作ったのは・・・なんて言ったらいいのか、とにかく統一性に欠ける。

しかも三浦君のペースは私よりかなり早く、このままだと半分以上どころか、
4分の3くらい三浦君に作ってもらうことになりそう。

はあ、頑張るって決めたのに。
せめても、と思い、私は無言で一心不乱に頑張った。

「あはは、そんなムキになってやらなくていいよ」
「でも・・・このままじゃほとんど三浦君に任せちゃうことになるし・・・」
「じゃあ、俺がもう少しゆっくりやるよ」

そう言って三浦君はペースを落とした。
お陰で私もちょっと余裕を持ってできるようになった。

でもそうなると、今度は沈黙が重い。
な、何か話さなきゃ。
三浦君、退屈だよね?

こういう時に面白い話とかできれば、三浦君とももっと仲良くなれるかもしれないのに。

私って、やっぱりつまんなくて冴えない子だ。

だけどとにかく私は頭をフル回転させて、何か三浦君に関係する話を思い出そうとした。


・・・そうだ!


「三浦君、入試2位だったんだってね。凄いね」

でも、私がそう言ったとたん、それまで穏やかな表情だった三浦君が急に無表情になった。

「そう?」
「え?だ、だって・・・2位だよ。頭いいんだね」
「1位じゃないけどね」

もちろんそうだけど、1位でも2位でも凄いことには変わりない。
だけど三浦君は面白くなさそう。
もしかして1位を狙ってたのかな?
だったら、悪いこと言っちゃった、かも。

「ご、ごめんね」
「何が?」
「えっと、」

私が言葉に詰まってると、三浦君は思い直したようにまた穏やかな表情になった。

「早く終わらせて、帰ろう」
「う、うん」


・・・。はあ。
私ってどうしてこうなんだろう。

三浦君が私のことを気に入ってくれるなんて思ってないけど、
せめて嫌われないようにしたいのに。
このままじゃ、それすら無理だ。


結局それから私はずっと無言のまま作業を続けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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