第6話 お誘
 
 
三浦君の、西田さんへの片思い。
溝口君の、月島さんへの片思い。
遠藤君の、藍原さんへの片思い。

そして私の、三浦君への片思い。

どの片思いも一向に進展しないまま、時間だけが流れた。


だけど2学期が始まって少し経った頃のこと。
事態は急変した。


事の起こりはある放課後のこと。

この日は、学校で保護者の集まりがあるとかで授業が終わると同時に生徒達は一斉に帰らされた。
下足室も校舎の入り口も大混雑。

帰宅部の私と、陸上部の望ちゃんは普段は帰る時間が別々だけど、今日は一緒に駅まで行くことにした。

「あ!三浦君だ!」

校舎を出たところで、望ちゃんが三浦君と溝口君が2人で校庭を校門に向かって歩いているのを見つけた。

「ねえ!雛子って溝口君と仲いいよね!?話しかけてよ!」
「え」

大興奮の望ちゃん。
でも、三浦君と溝口君、なんか2人で楽しそうに話してるし、
なんかわざわざ割り込むのも悪いな・・・

でも望ちゃんは私の腕をぐいぐい引っ張って、三浦君たちのすぐ後ろまで来てしまった。
ここまで来てしまえば、逆に声をかけないほうが変だ。
まるでつけてるみたい。
私は仕方なく小さな声で溝口君を呼んだ。

「・・・溝口君」
「?ああ、飯島」

ごめんね。そういう思いで溝口君の目を見る。
溝口君は私の思ってることがわかったのか、「いいよ」と言って目で笑った。

三浦君も私に気づいて足を止める。

「飯島と平山さんも今帰り?一緒に駅まで行く?」
「うん!行く!」

望ちゃんが元気良く答える。

私はまだ少し戸惑ってたけど、三浦君と話せるチャンスだ。
溝口君に感謝して三浦君に話しかけようとしたけど、望ちゃんが三浦君の横にべったりくっついてて、
とてもじゃないけど話しかけられない。

私は居場所がなくってどうしようかと困ってたら、
溝口君が「仕方ないなあ」と言う感じで私の横に並んでくれた。

三浦君と望ちゃんは、私の方を振り向くことなく校門へ向かった。


その時、校門の辺りが騒がしくなった。

何だろう。

三浦君も立ち止まる。
私は、三浦君の後ろから顔だけ出して校門の方を見てみた。

そこには・・・西田さん?

校門を少し出たところで、西田さんが誰かと話している。
ううん、話してるって感じじゃない。
言い合ってる・・・ていうか、喧嘩してる。

私はもう少し顔を出して、西田さんが喧嘩している相手を見た。


えっ。

私は固まった。
私だけじゃない。
三浦君も溝口君も望ちゃんも、そしてその場の生徒全員が固まってその光景を見ている。

西田さんが喧嘩しているのは、男の人だった。
どこのかわからないけど、朝日ヶ丘のじゃない制服を着ている。
それより何より・・・凄い。金髪だ。
背も大きくて、顔も強面。

私的には不良の典型って感じ。

でも西田さんは全く臆することなく、その男の人に凄い勢いで何かを言っている。
男の人も言い返してるけど、西田さんは怯まない。

だけど。
西田さんが急に涙ぐんだ。
言い込められて泣いてしまった訳ではなくて、何か思いつめたような・・・
見ていてこっちが切なくなってしまうような表情だ。

そして男の人が西田さんの腕を掴みどこかへ引っ張って行ってしまった。


2人の姿が見えなくなって、緊張の糸が切れたかのように、
周りにざわめきが戻ってきた。
みんな口々に、「今の、女の子はうちの1年?男の方、凄かったね」「こわーい」
「彼氏なのかな?」「まさかー」とか言ってる。


「あれ、3組の西田穂波ちゃん、だよね?」

望ちゃんも、三浦君の気持ちを知ってるはずなのに、わざと三浦君に訊ねる。
三浦君は「そうみたいだね」と素っ気無く答えた。




その翌日のこと。

「飯島」

私は学食でお盆を手にどこに座ろうか迷っていると、突然三浦君に声をかけられた。
今まで聞いたことのないような、明るい三浦君の声。

びっくりして思わず立ち止まったけど、その理由はすぐにわかった。
三浦君は、西田さんと月島さんと3人でご飯を食べていたのだ。

でも・・・

昨日、あの後、三浦君はいつも通りの笑顔で望ちゃんと話してたけど、
私の目にはすごく不機嫌に見えた。
それなのに、今日はこの上機嫌。何かあったのかな?

「な、何?三浦君・・・」
「来週の創立記念日、学校休みだろ?みんなで遊園地行くんだけど、一緒に来ない?」

遊園地?

「遠藤達と行くんだ。女子は月島と、西田さん。藍原さんも来てくれるかも」
「えっ・・・月島さんと、西田さん」

私は思わず声に出した。
どうして私がそこに入るんだろう・・・
西田さんとも月島さんとも藍原さんとも話したことないのに。

西田さんと月島さんは微妙な表情をしている。
2人の考えてることはわからないけど、少なくとも私が三浦君を好きなのは知ってるみたい。

断った方がいいかな・・・いいよね?

三浦君と遊園地に行ってみたいって気持ちはある。
でもどうせ、三浦君が西田さんと話してるのを見て、落ち込むんだって諦めもある。

どうしよう。

その時、三浦君たちの向こうで望ちゃんが自分を指差し「私も行きたい!」と、
私にアピールしてるのが目に入った。


結局私は、三浦君に「行く」と返事してしまった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ↓ネット小説ランキングです。投票していただけると励みになります。 
 
banner 
 
 

inserted by FC2 system