第19話 ナツミ 「ごめん」
 
 
 
授業が終わると、私は教室を飛び出した。

これ、久しぶりだなあ。
4月は毎日のようにこういう生活だったのに。

でも、あの頃とは目的が違う。



今日のお昼休みに萌加と話していて気づいた。
きっと私、月島クンに横柄な態度を取っていたんだ。
「自分はお金持ちです」って書いてあるような堀西の制服を着て、
毎日本屋さんに通い、更にはレストランまで追いかけて行って・・・

月島クンが怒って当然だよね。

謝ろう。
月島クンは私のことなんてもう忘れてるかもしれないけど、
とにかく謝ろう。

もう恋愛云々の問題じゃない。
私は人としてやってはいけないことをやったんだ。
謝るのは当然だ。

私は、来るように頼んでおいた家の車に飛び乗った。




よかった。いる。
もしかしたら、またバイトを変えたかもしれないと心配してたけど、
月島クンは、前と同じレストランにいた。
4月の時点ですでに慣れている感じだったけど、
更にスムーズに仕事をこなしているように見える。

一度にあんなたくさん食器を持てるなんて・・・すごいなあ。
それに、やっぱりかっこいい。
ううん、なんかちょっと逞しくなって、前よりかっこよくなったかも。

って、こらこら。

今日はそんなこと見るために来たんじゃないでしょ。


私は思い切って、レストランの中に入っていった。
外で待ってるんじゃ、前と変わらない。

あれから会うのは初めてだから、正直怖い。
また拒絶されるかもしれない。
でも、これ以上悪い状況もないだろう、と自分に言い聞かせて月島クンに近づいた。

「いらっしゃいま・・・あ」

月島クンの顔が強張る。
だけど私はめげずに、一気に言った。

「お話があります!向かいの喫茶店で待ってるから、お仕事が終わったら来て下さい!」

そして月島クンの返事も聞かず、走り去った。



喫茶店でミルクティーの入ったカップを両手で包むように持ち、
私はこれから月島クンに言おうとしていることを、頭の中でおさらいした。

まず、「ストーカーみたいなことして、ごめんなさい」、だ。
それから、「自分はお金持ちなんだ、って態度を取ってごめんさい」。
「そんなつもりじゃなかったんです」とか付け加えたら、言い訳がましいかな?やめておこう。

そして、最後に・・・「もうこんなことはしません。さようなら」。

たったこれだけ言うだけなのに、どうしてこんなに緊張してるんだろう。
そもそも、月島クン、来てくれるかな・・・
また「気持ち悪い」からって来てくれないかもしれない。

だけど、待てるだけ待とう。


そう決意したけど、そんな必要はなかった。
月島クンが30分もたたないうちに、喫茶店に入ってきたから。

月島クンは私を見つけると、こっちへやってきて、私の向かいに座った。
よ、よし、言うぞ!
まずは、えっと、

「ごめん」

・・・え?

今のは私の声じゃない。今のは・・・

「前は酷いこと言ってごめん。気になってたんだ」
「・・・」
「謝りたかったんだけど、次の日から君、来なくなっちゃったから・・・って当たり前だよな」
「・・・」
「あの時、俺ちょっとイライラしてて。思わず八つ当たりしたんだ。ほんと、ごめん」
「そ、そんな!」

私は首を思い切り振った。

「私がストーカーみたいなことしてたから・・・!あの、本当にすみませんでした・・・。
それに、堀西の生徒だからって威張った態度取ってしまって・・・それもごめんなさい」

だけど月島クンは不思議そうな顔をした。

「威張った態度?君が?俺に?だって、俺と君が話したのって、あの時1回だけじゃない?」
「・・・はい」
「それに一方的に俺が話しただけだし。威張るも何もないでしょ」
「でも、堀西の奴は嫌いって・・・」
「・・・ああ」

月島クンの表情が曇る。

「正確には、堀西の人間で嫌いな奴がいるってことなんだ。君がそいつと同じって訳じゃないのに、
堀西の生徒だからってだけで、俺、変な目で見ちゃったんだ。ごめん」

月島クンは本当に申し訳なさそうに微笑んだ。

そうだったんだ・・・
よかった・・・月島クンに嫌われてた訳じゃないんだ・・・
私はホッとして肩の力が抜けた。




「え?じゃあ、あそこでのバイトは今日で終わりなんですか?」
「うん、明日からはまた別のバイト」

月島クンは、注文したコーヒーを飲みながら言った。
すごい、ブラックで飲んでる。
私、コーヒーなんて角砂糖を2個入れないと飲めないのに。

「バイトって言うか、授業の一貫なんだけどね」
「授業?」
「うちの高校変わってて。現場の最前線で働くのがどれだけ大変か、どれくらいお金を貰えるのか、
それを肌で感じて来い、って全員強制的に色んな種類のバイトをさせられてる」
「・・・高校通ってるんですね」
「え?」
「バイトなんてしてるから、てっきりお家が苦しくて、学校に行ってないのかと・・・」

あ!私、また失礼なことを・・・
でも月島クンは、大爆笑した。

「ええ!?凄い想像力だね」
「・・・」
「そりゃ、そういうこともあるだろうけど・・・バイトなんてみんなやってるよ」
「そういうもんなんですか」
「そういうもんだよ。あはは、ほんと、世間知らずなんだな」
「・・・すみません」

私が赤くなっていると、月島クンが私を覗き込んでジッと見てきた。
うわ・・・恥ずかしい。

「えっと、君、なんて名前?」
「て、寺脇ナツミです」
「寺脇さんか。ねえ、寺脇さん、アルバイトしてみる気ない?」

へ?


 
 
 
 
 
 
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